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軍人ラグビー開幕! 自衛隊選抜が参戦する「国際防衛ラグビー競技会」とは?

平野貴也スポーツライター
第3回国際防衛ラグビー競技会に向けて調整する自衛隊選抜【筆者撮影】

 ラグビー日本代表が日本初開催のワールドカップ(9月20日~11月2日)を戦う前に、「もう1つのワールドカップ」が幕を開ける。各国の軍隊チームが参加する「国際防衛ラグビー競技会」(大会公式サイト)が9日に開会し、11日から競技を行う。日本からは(「軍」ではないが)自衛隊選抜チームが参戦。ラグビー日本代表より一足先に国際大会を戦う。

 日本の初戦は2回戦で、15日に習志野演習場で行われる。相手は、フランス軍対パプアニューギニア独立国軍(11日、陸上自衛隊朝霞駐屯地、自衛隊体育学校グラウンド)の勝者だが、前回3位のフランスが勝ち上がって来る可能性が高い。チームを率いる元日本代表の松尾勝博ヘッドコーチは「フランスが相手だとしたら、日本がアンダー世代を含めて、どのカテゴリーも勝ったことがない国。勝てば、日本のラグビー界の皆さんに『やるじゃないか』と思っていただけると思います。4部リーグ(最高峰のトップリーグ、直下のトップチャレンジリーグのさらに下に位置する地域リーグの1つ、トップイーストの2部)の選手たちだが、合宿を通じてすごく良くなってきている。強国にひと泡吹かせたい」と意気込みを語った。

第1回は英国陸軍、第2回はフィジー共和国軍が優勝

 大会は、英語で「International Defence RUGBY Competition(IDRC)」という名称を持ち、競技を通じた各国軍間の相互理解や交流を目的として行われている。2011年のラグビーワールドカップニュージーランド大会に合わせて、ニュージーランド、オーストラリアの共催で行われたのがきっかけ。以降は4年に1度行われるラグビーワールドカップに合わせ、同じ国で開催されている。日本は、第1回大会に招待されていたが、同年に東日本大震災に見舞われていたため、隊員が救出・復旧活動に従事していたため出場を辞退。2015年に英国で開催された第2回大会が初参加で、今回が2度目の出場となる。第1回は、英国陸軍が優勝。第2回は、フィジー共和国軍が優勝している。

 今大会は、10チーム参加のトーナメント戦。日本のほかに、オーストラリア、フィジー、フランス、ジョージア、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、トンガ、英国が参加。最終日の9月23日は、柏の葉公園総合競技場で3位決定戦と決勝戦を行う。英国は、これまで陸海空それぞれのチームが参加していたが、今回は各軍から選抜された選手でチームを構成。王座奪還を狙っている。

自衛隊選抜を率いるのは、元ラグビー日本代表の松尾勝博ヘッドコーチ【筆者撮影】
自衛隊選抜を率いるのは、元ラグビー日本代表の松尾勝博ヘッドコーチ【筆者撮影】

 歴史が浅いこともあり、まだ知名度は低い。ただ、玄人、素人を問わず、未知の世界として興味をそそる大会ではある。松尾ヘッドコーチは「私も、最初は、この大会の存在を知りませんでした。延岡東高校の後輩が防衛大学校に進んで習志野駐屯地に勤務していて、食事をした際にワールドカップの話になったのですが、こんな大会もあるんですよと聞かされて初めて知りました。でも、興味が沸きました。特に、他国の軍隊と自衛隊が戦うなんて話になると、普通に考えれば、戦争というあってはならない状況しか思い浮かびませんが、それをラグビーというスポーツで行うことができるのなら、世界をつなげることができ、国際交流として面白い大会になるのではないかと思いました」と関心を持ったきっかけを明かした。

日本の主力は船岡、習志野の2チーム レンジャー有資格者も出場

 軍人によるラグビー大会の歴史は古く、第1次大戦後の1919年に行われた「キング・ジョージ5世杯」が、この大会の起源にあたるという。欧州全土に展開していたニュージーランド陸軍や英国陸・空軍をはじめ6チームが英国に集まって行った大会だ。第2次大戦後には、英国で空軍と陸軍が定期戦を開始。その後も英仏海軍が、1805年トラファルガー海戦の200周年となった2005年から毎年記念試合を開催(2016年には大乱闘となって報じられた)するなど、軍人によるラグビー大会は、盛んに行われてきた。日本の自衛隊でもラグビーが盛んな部隊がある。今大会に参加する自衛隊選抜のほとんどは、陸上自衛隊の船岡駐屯地(宮城県)、習志野駐屯地(千葉県)の所属。両チームは、社会人チームとしてリーグ戦に参加しているのだ。船岡は、昨季はチャレンジイースト1部を戦っていたが降格。今季は、習志野と同じチャレンジイースト2部を戦う。

FWコーチを務める東考三氏は、習志野駐屯地でラグビーを始め、トップリーグ選手になった異色の経歴の持ち主【筆者撮影】
FWコーチを務める東考三氏は、習志野駐屯地でラグビーを始め、トップリーグ選手になった異色の経歴の持ち主【筆者撮影】

 今大会のメンバーに選出された34選手のキャリアは様々で、奈良県の天理高校や、東京都の國學院久我山高校といった名門校で全国大会を経験している選手もいる。一方、入隊後にラグビーを始めた選手も8人おり、こちらは、いずれも習志野駐屯地の所属。習志野では、訓練の一部としてラグビーが採用されており、全員が競技を経験する。駐屯地内の部隊対抗戦だけでも20を超えるチームが参加するほどラグビーが盛ん。今大会のチームでFWコーチを務める東考三氏は、習志野駐屯地でラグビーに出会い、トップリーグのNECグリーンロケッツに移って活躍した異色の経歴の持ち主だが、彼のような能力を持った選手が出てくる土壌がある。習志野駐屯地は、精鋭部隊として知られる第1空挺団の本部。体力、水泳、身体能力などの能力試験に加え、飲まず、食わず、寝ずの過酷な訓練を乗り越えた者だけが有することのできるレンジャーの有資格者が、今大会のメンバーにも14名選出されている。

前回とは異なる結束力で自衛隊らしいプレー目指す

自衛隊選抜には、仕事、競技を通じて培った組織力を示す戦いぶりが期待される【筆者撮影】
自衛隊選抜には、仕事、競技を通じて培った組織力を示す戦いぶりが期待される【筆者撮影】

 前回大会は、大会の約1カ月前に緊急招集されたチーム構成だったが、今回は昨年10月から2カ月に一度の頻度で合宿を経て、チーム力を高めてきた。日本は、前回大会でプール戦(予選グループ)敗退。その後の親善試合でジョージアに逆転勝利を収めた。そのきっかけを作った津留崎幸彦(天理大出身、陸上自衛隊船岡駐屯地所属)は「前回は、主力選手を集めただけの即席チームで、合わせる時間も極端に少なかったです。向こうは、チームとして活動していて洗練されていたので、まったく歯が立ちませんでした。今回の方がチーム力は高いと思います」と話した。自衛隊の精鋭メンバーがラグビーという競技を通じて、どこまで結束力を見せられるかが問われる。

 競技と仕事に通ずるのが「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」の精神だ。主将を務める堀口裕二(日本大出身、海上自衛隊下総基地所属)は「ラグビーは、1チーム15人。ボールは一つだけど、グラウンドで一番多い人数が一緒に動く球技。仲間のためにボールをつなぐとか、仲間のためにボールを奪うとか。競技をしてきて、仕事に生きていると思うのは、仲間を思う気持ち」と話した。競技大会である以上、勝負が重要。しかし、大会の大きな目的は、スポーツを通じた交流である。前回大会では、試合後のレセプションもあり、互いに国歌を披露したり、メダルを交換したりと異文化交流を行ったという。津留崎は「普段の活動とは、まったく異なる方向性から各国の軍の方と接することができた。スポーツを通じたコミュニケーション。ずっと、ラグビーをやって来たけど、その力をすごく強く感じた」と振り返った。国際防衛ラグビー競技会は、大きく間違えば不幸な形でしか交われなくなる軍隊や自衛隊が、スポーツを通じてチーム力を示し、互いの力をぶつけ合う、かけがえのない舞台なのだ。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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